サイレントマニピュレーションとは?

サイレントマニピュレーションは、肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)や凍結肩など肩の可動域が制限される疾患に対する治療です。(保険適用)
「非観血的関節授動術(ひかんけつてきかんせつじゅどうじゅつ)」とも呼ばれ、局部麻酔で痛みを取り除いた後、医師が硬くなった肩関節を動かして、拘縮(こうしゅく:関節が固まってしまう状態)を改善し、可動域を回復させます。

サイレントマニピュレーションのメリット

  • 外来での治療が可能
    サイレントマニピュレーションは外来での治療が可能なため、患者様の負担が軽減されます。
  • 短時間で肩の動きが改善する可能性がある
    固まっている肩関節の癒着や拘縮を医師が肩関節を動かし剥がすことにより、可動域を改善させます。サイレントマニピュレーションを行わない場合と比較して、改善の期間が大幅に短縮します。
  • 手術を回避できる
    これまで重度の肩関節拘縮では、入院し全身麻酔下での外科的手術が必要でしたが、サイレントマニピュレーションであればメスを使わず、外来での治療が可能です。
  • リハビリの効果を高める
    治療後も継続的にリハビリを行うことで、獲得した可動域を維持しやすくなります。
  • 麻酔下で行うので、痛みを感じにくい
    局所麻酔が効いてから施術をするので、強い痛みを感じることなく治療が受けられます。

サイレントマニピュレーションのデメリットと当院の対策

  • 脱臼や骨折リスクがある
    非常にまれですが、硬くなった肩関節を強制的に動かした際に脱臼や骨折が起こる可能性があります。当院では施術前に問診と画像検査を行い、関節や骨の状態を詳しく評価した上で、無理のない範囲で治療を行います。
  • 一時的な痛みや炎症を起こすことがある
    当院では、治療後は適切なアイシングや消炎鎮痛剤を使用し、痛みや炎症の軽減につとめます。また、術後のリハビリを徹底し、関節への負担を最小限に抑えます。
  • 肩関節拘縮が再発するリスクがある
    当院では可動域維持に向けたリハビリを提案し、併せて姿勢や動作指導も行い、再発しにくい環境をお手伝いします。
  • 麻酔に伴う合併症(吐き気や血圧変動など)のリスクがある
    局所麻酔の使用により、極まれにふらつき、吐き気、血圧低下などの症状が現れることもあります。状況に応じて、点滴やベッドでの安静などの対応を行います。

サイレントマニピュレーションは関節の動きを改善する有効な治療法です。しかしながら、可能性は極めて低いですが軽度の合併症のリスクもあります。当院では患者様に合わせた治療計画を立て、安全で効果的な施術を行っています。お悩みの方はご相談ください。

サイレントマニピュレーションの所要時間

サイレントマニピュレーションの所要時間は、全体で約1時間から1時間30分です。
【内訳】診察と準備20分、麻酔処置5分、麻酔が効くまでに20分、サイレントマニピュレーション施術5分、施術後のレントゲン確認など10分

サイレントマニピュレーションの適応

サイレントマニピュレーションは、肩関節の動きが悪い方すべてに適応する治療ではありません。適応となる主な疾患や対象者は、以下の通りです。
※あくまでも目安なので、実際の適応可否は検査・診断により判断されます。

サイレントマニピュレーションの適応疾患と対象者

  • 肩関節周囲炎(四十肩・五十肩)で、可動域が著しく制限されている場合
    例)腕が肩までしか上がらない、肘を脇腹につけて腕を外側に回せない、背中に手を回すとお尻の高さまでしか上げられないなど
  • 腱板断裂手術や骨折後の拘縮が進行し、リハビリのみでは改善が難しい場合
  • 保存的治療(リハビリ・薬物療法など)を3か月以上行っても、十分な効果が得られない場合
  • 夜間痛が強く、夜寝ていても痛みで目が覚めるなど日常生活に支障をきたしている場合

サイレントマニピュレーションが適応外となるケース

以下のようなケースでは、サイレントマニピュレーションが適さない場合があります。

  • 重度の骨粗しょう症の方
    固まっている関節を動かす際に骨折・脱臼リスクがあります。
  • 感染症や急性炎症がある場合
    治療により、感染症や炎症が悪化する可能性があります。
  • 過去に肩関節を骨折したことがある場合
    骨折が治っても骨の強度が低下している可能性があり、強い力を加えると再骨折のリスクがあります。特にプレートやボルトで固定している場合、破損、歪み、再骨折のリスクがあるため、多くは適応外となります。
  • 人工関節が入っている場合
    人工関節に過度な力を加えると関節部分に負荷がかかり、天然の関節よりも脱臼や損傷のリスクが高まります。

サイレントマニピュレーション治療の流れ

サイレントマニピュレーションを実施するためには、事前に診察と適切な検査を行い、治療が適応となるかを判断することが重要です。特に、MRI検査などの画像診断を行うことで、肩関節の状態を正確に把握し、治療の適応の有無や骨折などのリスクを最小限に抑えることができます。

1. ご予約

WEBまたはお電話でのご予約をお願いいたします。その際に「サイレントマニピュレーション希望」とお伝えください。

2. 初回診察(事前診察・問診)

患者様の症状や肩関節の状態を確認させていただきます。
どのような動作で痛みがあるか、いつから痛むか、夜間痛の有無、可動域の確認、過去の肩の手術や骨折経験、既存の疾患(糖尿病、骨粗しょう症、リウマチなど)について、詳しくお伺いします。

3. 画像検査

骨や軟部組織の異常を事前に確認して、サイレントマニピュレーションの適応を慎重に判断します。

  1. X線(レントゲン)検査
    骨の異常(骨折・関節変形・石灰沈着など)を確認できます。骨の摩耗がある場合には変形性関節症が原因で可動域制限が起こっている可能性もあります。
  2. MRI検査
    関節包の硬さや腱板断裂などの評価を行うため、実施が望ましいです。
  3. 当院提携施設にて実施していただきます。

  4. 超音波(エコー)検査
    動かしたときの痛みの原因が腱や筋肉にあるかを評価できます。
    また、ペースメーカーが入っている方などMRI検査を受けられない場合、検査の代用として行うこともあります。

4. 治療計画の説明

  1. 診断結果の説明
    MRI検査などの結果をもとに、医師が患者様の肩の状態を詳しくご説明します。
    その上で、サイレントマニピュレーションの適応の有無、治療の詳細、メリット・デメリット、治療後のリハビリについて説明します。
  2. サイレントマニピュレーションの日程調整
    サイレントマニピュレーションの治療は1時間から1時間30分程度の時間を要するため、原則予約制で行っております。

5. 超音波エコー下での局所麻酔の実施(治療当日)

横向きに寝ていただき、超音波(エコー)画像を見ながら、首にある肩関節を支配する神経に局所麻酔を行います。麻酔は15分~20分程度で効き、腕の感覚が麻痺し自分で動かせなくなります。治療後の疼痛予防のため、関節内に痛み止めを注射します。

6. サイレントマニピュレーション(非観血的関節授動術)

腕を軽く動かしていただき、痛みがないことを確認したら、医師が肩関節を5分程度動かします。固まった関節包や靭帯などの組織をゆっくり手で剥がしてほぐし、肩関節の動きを取り戻します。なお、治療中に「プチプチ」など関節包が破れる音がする場合がありますが、可動域が拡がるサインであり、痛みはほとんどありません。

(図)サイレントマニピュレーションのイメージ

7. 可動域の確認

治療後に肩の動きをチェックし、十分な可動域が確保できているかを確認します。

8. レントゲン検査(術後の骨折チェック)

治療による骨折などの異常がないことを確認するため、レントゲン検査を行います。

9. ご帰宅

治療後は局所麻酔の影響で、一時的に肩や腕に力が入りにくくなるため、三角巾を装着してご帰宅いただきます。麻酔効果は約6時間~8時間です。腕が動くようになったら、三角巾を外していただいて構いません。
なお、麻酔が効いている間は、腕が動かせないため、治療当日の車や自転車の運転はできません。

10. 術後のケアと経過観察

サイレントマニピュレーションの治療直後は肩関節の可動域制限がなくなりますが、少しずつ動きは鈍くなっていくため、術後のリハビリが重要です。

  1. リハビリテーション
    治療後の再拘縮防止のため、すぐにリハビリを開始しましょう。可動域維持のためのストレッチや筋力トレーニングを中心に行います。
    また、理学療法士の指導のもと、ご自宅でもセルフケア(運動療法)を積極的に続けていくことが大切です。
    当院では施術1か月は週1~2回程度、その後は週1回のリハビリを推奨しています。
  2. 経過観察
    定期的に診察を行い、可動域や痛みの経過をチェックします。また、リハビリなども含め、1~2か月程度の通院が必要です。

サイレントマニピュレーション後の注意点

  • 治療後の一時的な痛み
    当院では、麻酔が切れた後の痛みに備えて治療の終わりに鎮痛剤の注射を行いますが、人によってはそれでも軽い痛みを感じる場合があります。ただし、痛みを感じても通常は一時的なものなので、特に問題はありません。
  • リハビリの重要性
    サイレントマニピュレーションでは、術後のリハビリが重要です。適切な運動を継続することで、拡がった可動域を維持し、拘縮の再発を防ぐことが可能です。
  • 日常生活の注意点
    肩をできるだけ動かすことは大切ですが、十分な筋力の改善がみられるまではスポーツや肩関節に過度な負担のかかる動作は控えましょう。

サイレントマニピュレーションの費用

サイレントマニピュレーション(非観血的関節授動術)は、健康保険の適用対象となる治療です。自己負担額は、3割負担の場合、1回あたり約8,000円です。
※初診料・再診料、検査費用、リハビリ費用は別途必要となります。

よくある質問

1)すぐに日常生活に戻れますか?

はい。多くの患者様は当日から通常の生活が可能です。ただし、当面は極端に重いものを持ったり、激しい運動をしたりするのは避けましょう。

2)どのくらいで効果が出ますか?

可動域は治療直後から改善することが多いのですが、可動域を安定させるためには、翌日以降も継続的なリハビリやセルフケアが必要です。

3)サイレントマニピュレーションを一度受ければ、再発しませんか?

完全に再発を防ぐことは難しいですが、リハビリを適切に行うことで再発リスクを減らすことができます。

院長からひとこと

四十肩や五十肩などによる肩の痛みや可動域の制限は、リハビリテーション(リハビリ)を行ってもすぐに改善しづらく、日常生活に大きな支障をきたすことがあり、多くの患者様がお悩みです。サイレントマニピュレーションは痛みを軽減し、日常生活への復帰をサポートする有効な治療法です。
肩関節の痛みや可動域制限でお困りの際は、お気軽に当院までご相談ください。