母指CM関節症
母指CM関節症とは
母指とは親指のことであり、母指CM関節とは、親指と手首のあいだにある関節のことです。母指手根中手関節(ぼししゅこんちゅうしゅかんせつ)とも呼ばれますが、英名であるcarpometacarpal jointからCM関節と呼称されることが一般的です。
母指CM関節症とは、この親指の付け根の関節が徐々に変形する変形性関節症のことであり、症状としては物を掴む際などに親指の付け根に違和感や痛みが出てくる障害です。
母指CM関節症は40歳以上の女性に多く好発し、母指CM関節に不安定性が生じることで痛みが出たり、重度では関節の変形が起こったりします。
母指CM関節の役割
手の母指、つまり手の親指は、人差し指や中指といった他の指と比べ自由な動き、根本のある程度の回転が可能になっています。そのおかげで他の指と違う角度から物体にアプローチして挟み込む動作、つまり人間が”モノを持つ”という動作を可能にしています。
親指は手の機能の40%、全身機能の25%に相当すると言われており(*2)、人体のなかでも負担が集中する部位の1つと言えるでしょう。
原因
加齢
母指CM関節症の主な原因とされるのは「加齢」です。
ご紹介したように、母指CM関節が実現する親指の機能は人体のなかでも大きな割合を占めており、生活するうえで母指CM関節には少なくない負担がかかり続けます。
母指CM関節内には骨同士の間に存在してクッションや潤滑材の役割を担う軟骨がありますが、加齢に伴って軟骨は衰える一方、負荷はかかり続けますので、次第にすり減っていきます。この母指CM関節内の軟骨の摩耗を起点として炎症や関節の変形が起きることで母指CM関節症となります。
特に女性に好発するとされ、中年女性の10%、閉経した女性においては1/4 から 1/3もの方が罹患していると考えられています。(*2)
使いすぎ
母指CM関節症は、ご紹介させていただいた通り、親指の根元の軟骨が摩耗することが発端となって発症するとされます。つまり、通常よりも親指に負荷のかかる動作を恒常的に行っている方であれば、年齢に関わらず発症するリスクがあります。
具体的には手を酷使する職業や活動に従事している方で生じえます。手作業中心の職人の方や、ピアニストなどの音楽活動を行う方などであれば、年齢がそこまで高くなくても母指CM関節症に罹患する可能性があるといえます。
その他
上記以外に母指CM関節症の原因と考えられることとして、骨折や脱臼などの外傷をきっかけに発症したり、リウマチや痛風などの関節炎、先天的な関節形態異常や形成不全、関節の緩みなどがリスク因子と言われています。
症状
母指CM関節症の代表的な症状は、親指(母指)に力を入れる動作で痛みを感じるというものです。痛み以外には、親指(母指)が硬くこわばり、うまく力が入らなかったり、動かしづらい・開きにくいと感じることもあります。親指の付け根が腫れたり、出っ張る形で変形が自覚される場合もあります。
母指CM関節症の症状の出やすいシチュエーションは下記です。
- 瓶やペットボトルなどのフタを開ける時
- タオルを絞る時
- モノをつまむみ
- ドアノブの操作時
- ホッチキス、ハサミ操作時
- 衣服のボタンを留める時
- 大きいものを握る・掴む時
- ペンや筆で文字を書く時
上記のシチュエーションで親指が痛んだり、違和感を感じたりするのであれば母指CM関節症の可能性があると言えます。一度整形外科を受診されたほうがよいでしょう。
進行度分類
母指CM関節症はレントゲンの所見に応じて進行度が分類され、Eaton分類により4つのステージに分類されます。
- StageⅠ:レントゲン撮影では異常は認められず、正常といえる状態です。手を駆使したときに疼痛が出現する場合があります。ただし、靭帯が緩み外れかかっている状態である「亜脱臼」という状態で関節の隙間が正常よりも広くなっている場合があります。
- StageⅡ:関節の隙間が正常な状態よりも狭くなっていることが確認されます。関節の隙間は軟骨によって保たれますが、その隙間が狭くなっているということは軟骨が薄くなっている、つまり摩耗しているということを意味します。
- StageⅢ:関節の隙間がより顕著に狭くなっていることが確認されます。軟骨が強く摩耗している可能性が高く、そして時には消失している場合もあります。軟骨が吸収していた衝撃が骨に直接かかるようになってしまい、反応として骨が異常増殖して「骨棘(こつきょく)」と呼ばれる骨のトゲが形成されることもあります。
- StageⅣ:StageⅢに加え、かなり関節の隙間が狭くなっていることが確認され、ときに完全に隙間が消失していることもあります。また、骨棘をはじめ、明らかな関節の変形を伴います。
ただし、この母指CM関節症のステージと症状の重さは一致しないことが多く、ステージはかなり進行しているとしても症状はほとんどない、という場合も珍しくありません。とはいえ、レントゲンの所見をもとに手術すべきかどうかを検討することが多く、一般的にはStageⅢ以上であれば手術が選択肢に入ってきます。
治療法
母指CM関節症に対しては、基本的には外科的な方法によらない「保存療法」を優先することが一般的とされます。
保存療法
手術による皮膚切開を伴わない治療のことを「保存療法」といいます。以下に母指CM関節症に対する保存療法をご紹介します。
装具療法
装具療法という、手にサポーターを装着する治療方法から開始することが一般的です。
母指CM関節症では母指、つまり親指を動かすことで痛みが生じやすいので、親指を固定するようなサポーターから、負担のかかりにくい動かし方へと矯正するものなどもあり、疾患や個人の特性に合わせて選択します。
運動療法
運動療法とは、リハビリテーションとも言われ、運動を用いて症状や疾患を改善することを目的とした治療になります。理学療法士という人間の動作能力の維持や回復についての国家資格を持った整形外科のスタッフが運動を指導します。
母指CM関節症の場合は、上述した装具療法と並行し、サポーターを装着して痛みを抑えつつ運動療法に取り組むこともあります。
また、動きの癖を改善し、母指(親指)に負担がかからない動作方法を習得することで母指CM関節症の再発防止も目的としています。
薬物療法
薬物療法とは、名前の通り薬を用いた治療のことで、主に痛み止めの内服薬、湿布や塗り薬等の外用薬を処方し、痛みを抑えることを目的とします。
まずはいわゆる鎮痛剤であるNSAIDsと呼ばれる非ステロイド性抗炎症薬を処方することが多いです。ただし、痛みが強かったり患部の腫れが強いような場合にはステロイド注射を行う場合もあります。ただし、ステロイド注射は強力ではあるものの、頻繁に使用すると骨が脆くなるなどの強い副作用が確認されているため、間隔を開けて使用されます。
手術
上述した保存療法で改善しなかった場合、また、関節の変形が強い場合など、手術を選択することがあります。手術の種類は母指CM関節症の進行状況や症状、そして患者さんの希望に応じて選択されます。
ここでは母指CM関節症に対するいくつかの手術方法をご紹介します。
関節形成術
親指の付け根にある骨の一部を取り除き、その代わりに周囲の”腱”という強靭な筋組織で骨の代わりのクッションを作ることで関節を形成する手術です。モノをつまむ力が低下することは避けられませんが、痛みの発生源になっている骨を取り除くことで除痛効果が見込めます。
関節固定術
関節固定術とは、名前の通り関節をワイヤーやネジなどで固定して母指(親指)の動く範囲を制限し、痛みが出る方向に指を曲げられないようにする手術です。除痛効果に加えて、手でモノをつまむ能力も回復することが報告されています。
ただし、関節を固定するという性質のため、術後は少なからず親指の動かせる角度に制限が生まれます。また、母指CM関節症の進行度がStage Ⅳまで進んでいる場合はこの手術は行なえません。
この他にも様々な手術が存在します。関節鏡視下手術、人工指関節置換術、中手骨骨切り術などが挙げられ、また、患部の状態によっては組み合わせて行う場合もあります。手術の必要があると判断された場合には、適宜近隣の対応病院をご紹介させていただきます。