外反母趾

外反母趾とは

外反母趾は成人の足部変形の中で最も多い疾患の一つであり、外見的特徴として母趾(親指)が「くの字」に反ってしまう変形(外反)を示す疾患です。主に親指の付け根が外に突き出すように変形します。
外反母趾は以下のように、親指付け根の角度によって変形の程度を評価します。一般的に20°以上の角度で外反母趾と診断されます。

  • 正常平均値:10°〜16°
  • 軽度変形:20〜30°未満
  • 中等度変形:30〜40°未満
  • 高度変形:40°以上

中高年の女性に多くみられ、特に手術まで進む症例についてはその90%が女性であったとする報告もあります(*1)。
主に治療の対象となるのは「痛み」そのものであり、大きく下記の3段階に分類できます。

  • 外に飛び出した親指の付け根部分を押すことで痛むだけ
  • 靴を履くと痛い、痛くて靴が履けない
  • 長期間、何もしていなくても痛い

とくに「何もしていなくても痛い」という状態になってしまうと日常生活に大きく影響するため、手術の対象となります。

症状

外反母趾の症状は痛みを中心に、親指の付け根を始めとした足の様々な箇所に発生します。
以下に外反母趾による症状をいくつかご紹介いたします。これらの症状は単独、あるいは複合的に発生します。

① 親指付け根の痛み

親指付け根の痛みは最も頻度の高い症状として認められます。
外反母趾は親指の付け根部分が突出する疾患であるため、正常な足幅よりも広くなってしまい、靴と擦れたり、圧迫されることで痛みを感じます。
外反母趾の代表的な症状のひとつです。

② 親指先端部の関節に“たこ”ができる

親指先端の関節(第一関節)に「胼胝(たこ)」「うおのめ」と呼ばれる皮膚の局所的肥厚を形成し、同部に痛みを感じることもあります。
外反母趾変形が強い症例にみられることがあります。

③ 人差し指、中指の痛み

本来、足の親指は歩行時に地面を蹴り出して推進力を獲得し、人間が二足で効率的に歩行するうえで大きな役割を果たしています。ですが、外反母趾によって親指が変形、この役目を果たせなくなると、代わりに人差し指や中指が歩行時に地面を蹴り出す役目を担うようになります。
親指をいれて片足5本で分散していたエネルギーを4本で担うようになるので、単純計算で足の指一本あたりの負荷が25%増大し、親指にほど近い人差し指や中指に痛みを伴うようになる場合があります。

④ 人差し指背面の痛み

外反母趾の変形が進行すると、親指先端部が人差し指の下に入り込むことによって、人差し指が上に押し出されるようになる場合があります。
その結果、人差し指が靴の中で圧迫されたり、頻繁に擦れ、胼胝(たこ)が形成され、ときに痛みを伴うようになります。

⑤ 人差し指、中指の付け根に腫れと痛み

上述したように、外反母趾は親指の位置がずれ、親指が主に担っていた「地面を蹴って推進力を得る」役割を他の指が補完しようとし、人差し指や中指がその役目を担うことが多いです。
この際、指の付け根の部分で地面を蹴るような癖があると、人差し指や中指の付け根部分に胼胝(たこ)ができ、痛みを伴う場合もあります。

⑥ 親指のしびれ

足の親指がしびれることも外反母趾の特徴的な症状です。
外反母趾変形が進行し、その他の遺伝的要因や外因なども手伝って、親指内側の神経(足背趾神経といいます)が圧迫され、足の親指にしびれが生じると考えられています。

⑦ 足の甲の痛み

外反母趾による変形の影響で足の甲に痛みや腫れが生じる場合があります。これは足全体の中心に位置する関節「リスフラン関節」が炎症している可能性があります。
「リスフラン関節」は足全体の中心に位置する関節です。足全体の中心に位置するため負荷が集まりやすく、外反母趾変形に伴い親指の位置がずれてバランスが崩れることでこのリスフラン関節に炎症が生じ、自覚症状としては痛みや腫れになって現れます。

⑧ 安静時痛

外反母趾が高度に進行したり、外反母趾にも関わらずサイズの合わない靴を履き続けるなどで、痛みをはじめとした症状は増悪します。

「押すと痛む」「靴を履いたり歩くと痛い」という程度だったものが、「横になって安静にしていても痛む」「夜に痛みで目が覚める」という炎症の状態に発展する場合があります。

大切なのはここまで症状が悪化しないように速やかに治療を開始することですが、ここまでの症状になると一般的には手術を検討せざるを得ません。

原因

①家族に外反母趾患者がいる

外反母趾の原因として、遺伝的要因が挙げられます。
イギリスでは外反母趾患者91例の63%に家族内の発症が確認され、外反母趾の無い者84例では家族内に外反母趾患者がいる方は1名のみであったという報告があります。また、スペインで外反母趾患者350例の3世代までを調査した報告では、祖父母までの世代に外反母趾患者が存在する確率は90%だったとされています。(*1)
ご家族に外反母趾の方がいらっしゃる方は、そうでない方に比べて外反母趾にかかりやすいといえます。

②女性である

冒頭でも述べたように、手術まで進む症例についてはその90%が女性であったとする報告があります。また、韓国でとある農村において40〜69歳の住民563例を対象に調査した事例では、そのなかで痛みを伴う外反母趾を発症している者の76.7%が女性であったとされています。(*1)
それ以外にも、外反母趾が女性に多いことの調査・報告は多く、女性であることは外反母趾の原因のひとつと言えます。

③足幅が大きい

「①生まれつきの要因」と類似しますが、外反母趾の原因に「足幅」が大きいことが挙げられます。「足幅」とは、足の親指の付け根から小指の付け根までの距離をはじめとした”足の横幅”のことです。
外反母趾にかかっている患者77名と、外反母趾ではない患者99名とを比較した、外反母趾が発症する要因の研究(*2)では、外反母趾に罹患している方の足幅が大きいことがわかりました。
靴選びの際に指標になる「サイズ」は、かかとから足の指先までの”足の長さ”がメインになることが多く、足幅はあまり検討されないことが多いでしょう。そのため、足幅が大きめの方は「きつい」「窮屈」な靴を選ぶリスクが相対的に高く、そのために足の骨格が圧迫されて外反母趾に至るのではないか、と考えることができます。

④指のなかで親指がもっとも長い

足の指のなかで、親指がもっとも長い方は外反母趾の発症リスクが比較的高いとされます。

このような、親指が人指し指よりも長く、足の先端が親指であるタイプの足は「エジプト型」と呼ばれます。この「エジプト型」の足の方は外反母趾に罹患するリスクが、そうでない足のタイプの方よりも高いとされます。

日本人にはこの「エジプト型」の方が多いとされており、そういった意味では日本人は外反母趾に罹患しやすいと言えます。

⑤靴

外反母趾の外的要因の代表は、靴を履くことであり、特にヒールが高い靴や、靴の先端部の空間が狭い靴など、足の先端部に負荷が集中するような靴は特に外反母趾の発症リスク、症状の増悪リスクが高いとされています。

外反母趾の原因はここまでご紹介してきたように様々な可能性が示唆されていますが、その発生時期に関しては、小児期、思春期及び成人期があり、一般的に加齢とともに変形は増悪すると言われています。

診断

レントゲン(X線)検査

足のレントゲンを撮影し、「親指付け根の角度(外反母趾角)」や「足中心部の骨格の角度(第一・第二中足骨間角)」などを検査し、変形の程度や状態を評価します。

「外反母趾角」とは

外反母趾角とは母趾の外反変形の程度を評価する尺度です。冒頭にも述べたように、一般的にこの外反母趾角の角度が20°以上で「外反母趾」と診断されます。

  • 正常平均値:10°〜16°
  • 軽度変形:20〜30°未満
  • 中等度変形:30〜40°未満
  • 高度変形:40°以上

「第一第二中足骨間角」とは

第一第二中足骨間角とは、親指につながる第一中足骨と、人差し指につながる第二中足骨の間の角度のことです。
この角度と外反母趾には関連性が示唆されており、正常平均値は8〜10°ですが、この角度を超えると外反母趾と診断されます。

治療

保存療法

  • 足部筋肉のマッサージやストレッチ、トレーニング
  • テーピングやインソールなどの装具療法
  • 歩き方の指導
  • 自主トレーニングの指導

外反母趾のリハビリテーションについて

手術療法

  • 骨切り術

    軽度〜中等度の外反母趾が適応になることが多い手術です。
    骨を切って曲がりを矯正し、矯正した位置を保つために金属で固定します。どの部位を、どのように骨切りするか、多くの手術術式があります。

  • 関節固定

    高度の外反母趾が適応になることが多い手術です。
    上述の骨切り術同様に、骨を切って外反母趾に寄る変形を矯正したうえで、さらに矯正した位置を保つため金属で固定します。
    骨切り術と異なる点は、関節を固定するため、強制力が強いというメリットがある一方、固定した関節が動かなくなるというデメリットもあります。

お気軽にご相談ください

  • 昔と比べて親指が曲がってきたような気がする
  • 親指の内側のところが痛い、他の指
  • 長時間歩いた後に親指の内側部分が赤くなっている、腫れている
  • 足の裏や足の指のところに胼胝(たこ)やウオノメができている
  • 履く靴によって症状が変わるので、どのような靴を履けばいいのか知りたい
  • 悪化しないようにするためにどのようなことをすればいいのか知りたい
  • 手術以外でできることを知りたい

当院では、足の外科に精通した医師の指導のもと、理学療法士によるリハビリテーション(筋のマッサージやストレッチ、筋力トレーニングなど)が可能です。
また、当院にはシューフィッター(靴の専門家)も在籍していますので、インソールの作成や靴についてのお悩みなどお気軽にご相談ください。

記事執筆者
院長 前田真吾

六本木整形外科・内科クリニック

院長 前田真吾

日本整形外科学会認定 専門医